使う言語によって世界の見え方・思考及び考え方が変化【外国語学習の視点】 

使う言語によって世界の見え方・思考及び考え方が変化【外国語学習の視点】 

外国語を勉強していると、英語を話している時は別人格になったように感じるなど、思考に差異が生じているかのような感覚になったことがある人もいるかもしれませんが、こうした論争を巡る議論があります。

 

言語はその話者の世界観の形成に関与してはいないか?

 

思考というものが必ず言語を用いてなされるのならば、その言語の影響を思考や世界観が受けるのではないか?

 

言語は世界の見え方や我々の思考及び考え方に影響を与えているのではなく、生まれつきに備わったものなのだろうか?

 

今回はこうした外国語を学ぶ時に感じる「話者の言語によって思考や世界観が影響を受けるか」という疑問について考えてみたいと思います。

仮説:話者の言語によって思考や世界観が影響を受けるか?

サピア・ウォーフの仮説(Sapir–Whorf Hypothesis)

こうした疑問を巡って論争を巻き起こしたのが「サピア・ウォーフ仮説」です。

 

これは、「ある言語を母語とする人の認識・思考はその言語によって影響される」という説です。

 

1930年代にベンジャミン・ウォーフとエドワード・サピアという2人の学者の名前にちなんで「サピア・ウォーフ仮説」と呼ばれています。

 

彼らは、言語は表面的な違いだけではなく、非表面的な思考にまで影響を及ぼしていると主張しました。

 

世界では約7,000の言語が使われていて、それぞれに異なる音、語彙及び構造を持っており、それぞれの言語には独特な表現方法があります。

 

そして、その言語で表現することを習慣的に行う過程で、その言語に相応しい意識の払い方を自然と学習し、その意識の払い方が個人の思考の違いを形成しているとしています。

 

この考え方を支持する論者の間においても、言語が認識・思考にどの程度強い影響を及ぼすのか、また、言語という場合に、意味の範疇からみた語彙体系を指しているのか、あるいは、文法構造まで含むのかなどに関しては見解の相違があります。

 

各種調査から明らかになってきた言語が影響を及ぼす違いには以下のようなものがあるとされています。

  • 色の認識
  • 空間関係の認識
  • 時間の認識
  • モノの認識
  • 動作の認識
  • 文法における性別や動物の認識

サピア・ウォーフの仮説が脳波分析で証明

認識・思考は根本においては言語から独立したものであると言語学者から否定されてきた仮説ですが、バイリンガルの人はこの仮説が経験則で正しいと認識するのではないでしょうか?

 

すなわち、バイリンガルの人は、日本語で考える時と英語で考える時では明らかに思考が変化しますし、英語を話す時には英語圏の人のような振る舞いをし、日本語を喋る時とは明らかに異なります。

 

そんな「サピア=ウォーフの仮説」が、異なる母国語者間の虹を見たときの脳の視覚野の反応に相違があるとして脳波分析で証明されたとベルリン・フンボルト大学 が発表しています。

Now in a new paper, published in Psychological Science, Martin Maier and Rasha Abdel Rahman at the Humboldt University of Berlin report that by affecting visual processing at an early stage, such linguistic differences can even determine whether someone will see a coloured shape – or they won’t. “Our native language is thus one of the forces that determine what we consciously perceive,” they write. 

The wavelengths of light that we perceive as colours form a smooth continuum, but crucially, the colour categories that people use to divide up this spectrum vary between languages. Maier and Abdel-Rahman studied native Greek-, Russian- and German-speakers for whom these categories differ

東洋人と西洋人では思考習慣に違いがある?

このように、ある言語を母語とする人の認識・思考はその言語によって影響されるということが正しいのであれば、東洋人と西洋人における思考習慣に違いがあるということも納得できるのではないでしょうか?

 

一般的に、西洋人のほうが規則、分類、論理を重視し、東洋人のほうが関係性や弁証法的推論を重視する傾向があるため、東洋人と西洋人では思考習慣に違いがあると指摘されることがあります。

東洋人:包括的

  • 東洋人は幅広い物事や出来事に注意を払い、物事や出来事同士の関係や類似性に関心を持つ。

  • また、対立する考え方の「中庸」を探すなど、弁証法的な考え方を使って思考する。

  • 東洋人は他者に注意をはらう必要があるため、外部の幅広い社会環境に目を向け、その結果として物理的環境にも意識を注ぐ。

西洋人:分析的

  • 西洋人の知覚や志向は分析的で、身の回りのうち比較的小さな部分、何らかの方法で影響を与えたいと思う物事や人に意識を集中させる。

  • そして、その小さな部分の属性に注意を向け、それを分類したり、その振る舞いをモデル化しようとしたりする。

  • また、形式的な論理規則を使って推論することが多い。

こうした東洋・西洋における思考や世界観の違いは、歴史的背景や文化などにより影響を受けているものと思っていましたが、言語の影響によるものであれば、使用する言語を変えることにより、同時に行動や思考方式も変化させることができるということになります。

言語が思考を形成するという「Lera Boroditsky」氏のTEDプレゼンによる解説

認知科学者のLera Boroditsky(レラ・ボロディツキー)氏による「How language shapes the way we think(言語はどんなふうに私たちの考え方を形成するのか?)」と題するTEDのプレゼンはサピア・ウォーフ仮説をより現実に即した形で分かりやすく説明しています。

 

 

認知科学者のレラ・ボロディツキー氏は、様々な事例を紹介してこの仮説への答えがイエスであることを示しています。

 

各種調査から明らかになってきた言語が影響を及ぼす違いには以下のようなものがあると上述しましたが、本プレゼンテーションはこれらのいくつかについて説明しています。

  • 色の認識
  • 空間関係の認識
  • 時間の認識
  • モノの認識
  • 動作の認識
  • 文法における性別や動物の認識

時間の認識

こちらは年齢の違う祖父の写真です。英語話者にこの写真を並べるように言うと、たいてい左から右に並べます。

年代の違う顔写真

では、「左」と「右」という言葉を使わないクウク・サアヨッレ族はどうするでしょうか?

 

 

彼らは大地に合わせて時間の向きが決まり、身体の向きが変われば、時間の向きが変わります。

 

自分の身体の向きが変わると、時間の進む方向が変わることから、クウク・サアヨッレ族の時間の流れは見ている景色で決まると言えます。

 

すなわち、時間に対する考え方が大きく異なり、言語により時間の認識が変化しているということです。

数に関する考え方

ペンギンの親子

ぺンギンは何羽いますか? 皆さんは「1〜3」と数えていき、最後の番号である「8」がペンギンの数だと考えます。

 

しかし、言語によっては、「7」や「8」がない言語があるため、このようには数えません。

 

こうした言語を話す人々は、量を正確に把握するのが苦手です。

 

このペンギンと同じ数のアヒルを結びつけるように言うと、皆さんは数えてそうするでしょうが、そのような言語的スキルがない人たちは

そうできないのです。

色の認識

 

4種類の青

言語によって色の認識が変わることもあります。

 

色を表す言葉がたくさんある言語もあれば、「薄い」「濃い」と少しの言葉で表す言語もあります。

 

英語なら、今、スクリーンに出ている色をすべて表すブルー(blue)という言葉がありますが、ロシア語では一つの言葉はなく、薄い青を「(голубой)」、濃い青を「синий」として区別します。

 

生涯にわたって、2つの色を区別するのです。これらの色を区別するテストをするとロシア語話者は、薄い青と濃い青をより早く判別できます。

 

色を見ているときの脳を調べると、薄い青から濃い青に変わるとき、この2つを別の言葉で区別している人は、カテゴリーが変わって驚いたかのような反応をします。

 

英語話者にはこのようなカテゴリーの切り替えや驚きは認められません。

 

カテゴリーは変わっていないからです。

名詞の性別認識

言語には構造的に奇妙な点がいろいろあります。例えば、文法上の性の区別です。

 

名詞に男女の性別の区別がついている言語がありますが、どちらの性別になるかは言語によって違います。

 

ドイツ語では「太陽」は女性名詞ですが、スペイン語では男性名詞です。

 

月はその逆です。

 

こうした区別は人の考え方に影響を与えるでしょうか? 

 

ドイツ語話者は太陽を女性的なもの、月を男性的なものとしてみるのでしょうか?

 

実はそうなのです。ドイツ語話者とスペイン語話者に、このような橋を形容してもらいました。

 

「橋」はドイツ語では女性名詞、スペイン語では男性名詞です。

 

ドイツ語話者は橋の説明をするとき、「美しい」とか「優雅」といった女性的な言葉を使う傾向があります。

 

スペイン語話者は、「力強い」「長い」といった男性的な言葉を使いがちです。

使う言語によって自分の人格が変化? バイリンガルも思考は自分が使う言語の影響を受ける

最後に、バイリンガルの人はどうなのかについて紹介して終えることにします。

 

バイリンガルだと、使う言語によって自分の人格が変わっているように感じる人は多いですが、果たしてこの感覚は正しいのでしょうか?

 

「Psycological Science」誌で発表された研究によると、バイリンガルの行動と周りの世界の捉え方は、その瞬間に話している言語に依存し、使用する言語を変えると、同時に行動や物事の捉え方も変化させるとされています。

 

英語もドイツ語も流暢に話す人々に実験を受けてもらったところ、答えは被験者がその瞬間に使っていた言語によって変わることが明らかになっています。

 

バイリンガルの人々がドイツ語を使っているとき、彼らの回答はドイツ語を母国語とする人のものに近く、逆も然りでした。

 

さらに、実験の途中で使う言語を変えてもらうと、答えもまた変わりました。

 

確かに、実体験として考えてみても、韓国語の場合は日本語と思考過程が一緒なので変化はあまり感じませんが、英語やロシア後に頭を切り替えた時は明らかに思考に変化を感じます。

まとめ

話者の言語によって思考や世界観が影響を受けるかとの仮説は、これまでみてきたことに加え、実体験としてもどうやら正しいようです。

 

思考や世界観の違いは、歴史的背景や文化などにより影響を受けているものと思っていましたが、言語の影響によるものであれば、使用する言語を変えることにより、同時に行動や思考方式も変化させることができるということになります。

 

すなわち、異なる語学を学ぶことでその語学を習得するだけでなく、思考方式にも影響を及ぼすことから、以下の記事で示しているような外国語を学習するメリットも生まれてくるのかもしれません。

 

こうした観点からも外国語学習は推奨できます。

 

外国語を学習するメリットは? 英語・韓国語・ロシア語を独学で習得した経験から考えてみる

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