のれん償却義務化が国際会計基準(IFRS)で検討される理由とは? 日本基準・IFRSで会計上の利益が変化

のれん償却義務化が国際会計基準(IFRS)で検討される理由とは? 日本基準・IFRSで会計上の利益が変化

2018年9月13日付の日経新聞が、国際会計基準(IFRS)における「のれん」の償却を義務化する検討を開始したと報じています。

具体的には以下のような内容です。

国際会計基準(IFRS)を策定する国際会計基準審議会(IASB)が、企業買収を巡る会計処理の見直しに着手したことが明らかになった。買収代金のうち相手企業の純資産を超えて支払った「のれん」と呼ぶ部分について、費用計上義務付けの議論を始め、2021年にも結論を出す。大型のM&A(合併・買収)が相次ぎ、企業財務への影響が強まっていることを考慮した。IFRS採用企業の業績には下押し要因となる」

のれんは買収先企業のブランド力などの対価と解釈され、買い手企業が資産計上する。日本の会計基準では最長20年で償却し、費用として処理していく。IFRSではのれんの償却は不要。ただ、買収先企業の財務が悪化した際は、「のれん」の価値を一気に引き下げる減損損失の計上が必要になる。巨額の減損損失を突然公表するケースもあり、投資家から分かりにくさを指摘されてきた。

国際会計基準では、減損損失を巡る企業の判断が「楽観的になりやすい」うえ、計上のタイミングも「遅すぎる」と指摘。規制当局など利害関係者から意見を集約したうえで、のれんの償却を義務付けるかどうか判断する。償却期間は「一律にするのが望ましい」と言う。内部では以前からのれんの会計処理を巡る問題が意識されてきた。ただ、これまでは現状維持派が優勢で、議論を始めていなかった。しかし、議長の意向もあって、7月に議論を始めると正式に決定。のれんの償却・費用化に向けて前進した。

企業業績への影響は大きい。IFRSは欧州を中心にアジアなど120以上の国・地域が採用。日本では09年度から採用が認められるようになった。ソフトバンクグループや武田薬品工業などM&Aに積極的で、のれんが膨らみがちな企業による採用が目立つ。17年度時点で国内IFRS導入企業(約160社)は約14兆円、欧州の主要600社は240兆円ののれんを抱える。仮に20年間の定期償却が導入されると、日欧合計で年間13兆円の減益要因が生じる計算になる。大型M&Aが活発な米国では主要500社で340兆円ののれんを計上している。米国会計基準ではのれんの償却は不要だ。とはいえ、IFRSは世界の主流になりつつあるため、会計業界での影響力は強く、米国でも同様の議論が進む可能性もある。

のれんの償却は企業財務の予見性を高め、投資家のメリットとなる。その半面、M&Aのコストを増やし、企業活動を阻害するとの反対論も根強い。IFRSの見直し議論も今後、曲折が予想される。

 

のれんの償却が国際会計基準(IFRS)で検討されることで投資家にはどのような影響が出るのでしょうか?

 

今回はこうした疑問についてみていきます。

 

一言で言ってしまえば、「のれん償却」が義務化されるとなれば、IFRS採用企業の毎年の営業利益が圧迫されてしまうということに尽きます。

 

のれんとは?

のれんの償却について見ていく前に、まずは「のれん」の意味するところについて簡単に概説します。

 

「のれん」とは、ざっくりと表現すると、「買収に際して、帳簿上の価値よりも多く支払った金額」のことです。

 

例えば、日本企業がある海外の企業を買収したとします。

 

その海外企業の純資産が仮に100億円だとしても、売り方は高く売りたいであろうし、他にも買収を狙うライバルも当然いるので、通常はこの100億円という価格で買収できることは少なく価格は上がります。

 

結果的に150億円で買収したとして、150億円から純資産100億円を引いた50億円が「のれん」となります。

今回の報道とは関係がありませんが、上記の例とは逆に赤字企業や経営難に陥っている会社を買収する場合は、純資産よりも安い金額で買収することも可能で、この場合、安く買えた分の金額は「負ののれん」となります。

のれんの具体例

イメージしにくい場合、「のれん」の概念を理解するために、老舗の旅館の軒先に掛けられた「のれん」を思い浮かべてください。

 

この旅館の帳簿上の価値は小さいが、「あの老舗の”のれん”が掛かっていれば人気は安泰であろう」という無形の価値があります。

 

これがまさに、「買収に際して、帳簿上の価値よりも多く支払った金額」=「のれん」なのです。

 

実際は、買収した企業の不動産に含み益が発生している場合や所有する顧客名簿に価値がある場合などは、それらを時価ベースで計上し直すため、厳密にはこの50億円の全てが「のれん」となるわけでありませんが、専門家ではないのでそこまで正確に理解しなくてもこれくらいのイメージができれば十分だと思います。

のれんの会計処理方法

次に問題になるのが、「のれん」の会計処理の方法ですが、「のれん」は買収額から買収した企業の純資産を引いた額を無形固定資産として計上します。

 

上述した例で言うならば、差額の50億円が貸借対照表(B/S)の左側にある「資産の部」の「固定資産」のカテゴリーにある無形固定資産として計上されます。

 

* 無形固定資産とは、「具体的な形のない資産のことであり、長期的に渡り企業が所有している収益が見込める資産として目には見えない、物理的な実態の無い資産」です。

のれんの減損

ここから本題に入っていきます。

 

冒頭で触れた「のれん」は買収した企業の業績が想像以上に悪いなど、価値が低いと判断された場合、損失として計上しなければならないため、企業を苦しめることもありますが、これを「のれんの減損」と呼びます。

 

例えば、上述した例では、50億円の「のれん」を計上していましたが、実際には稼ぐ能力が予想以上に低い場合、「のれん」として25億円を減損するといった具合です。

会計基準によって異なる減損方式

そしてこの減損方式は、会計基準によって異なっています。

損益計算書や貸借対照表は決められた会計方針に従って作成されるのですが、すべての会社が同一の基準で決算を行っている訳ではありません。

日本の会計基準

日本の会計基準では、買収した企業の業績が良かろうが悪かろうが、買収後20年以内に損益計算書の費用として計上する仕組みになっています。

 

減価償却と同様の考え方で、時間の経過とともに価値が減じるから、それを会計上も反映していくという考え方です。

国際会計基準(IFRS)

他方、国際会計基準では「のれん代」を定期的に償却する必要がありません。

 

こうしたことから、日本企業が続々と国際会計基準を採用するのは、企業活動のグローバル化により、海外子会社が所在する地域で国際会計基準が使われている場合、親会社の日本企業も同じ基準にした方が決算作業や管理がしやすくなるだけでなく、グローバルの投資家にとっては国際基準同士のほうが企業比較をしやすく、日本企業の評価が高まりやすくなる面などが表向きの理由として説明されますが、「のれんの定期償却の必要がなく、買収を行いやすい環境にするため」、あるいは「見かけ上の利益が大きくなるため」なのではないかとも指摘されています。

 

ただし、国際会計基準では、突然大きな減損が発生する爆弾のような仕組みがある点に注意が必要です。

 

すなわち、決算のたびに買収した企業の収益をチェックし、収益を生み出していないと判断された場合、「のれん」の減損をしなければなりません。

 

したがって、稼ぎ以上に減損が大きければ国際会計基準では「営業損失」(国際会計基準では特別利益という概念がないため)、日本基準では、「特別損失」になります。

 

* 国際会計基準と日本基準では損益の定義が異なり、日本基準における経常損益、特別利益、営業外損益という項目は、国際会計基準には存在しません。

 

また、減損とは言うものの、現金は買収の際にすでに出ているため、定期償却や減損の際には現金が減るわけではない点も注意が必要です。

 

経営者が「のれん」の減損を認めることは、買収が失敗だったことを自ら認めることになるので、「のれん」の減損損失に消極的になるのは、ある意味当然とも言えます。

 

これまでは、上述したように国際会計基準では「のれん」を定期的に償却する必要がなかったのですが、「のれん償却」が義務化されるとなれば、営業損失として計上されることから、IFRS採用企業の毎年の営業利益が圧迫されてしまいます。

国際会計基準の見直しが検討される理由について

のれんの償却が国際会計基準(IFRS)で検討される理由について、IASB(国際会計基準審議会)のハンス・フーガーホースト議長は、以下のように発言しています。

質 問

IFRSで、のれんの償却が議論の対象になったのは、なぜですか?

回 答

M&Aの増加で、のれんが膨らむ中、ひとたび経済危機が起これば、減損の嵐になる。現行のIFRSでは、決算期末などに買収先の企業価値が下がっていないかを調べる『減損テスト』を求めているが、これには大きな課題がある」。「減損テストは、本来、買収先の企業価値だけを考慮すべきだが、実際には買収した側の既存事業の無形資産なども含めて判断しているケースがある。つまり、(中長期的な)収益見通しが、バラ色になりやすい。基準が楽観的過ぎるため、減損のタイミングが遅くなりがちだ」

質 問

投資家のデメリットが大きいということでしょうか?

回 答

その通りだ。現状では、投資家が財務諸表に対して、実際以上に好印象を持ってしまう場合がある。 減損が多発すればプロの投資家はともかく、(専門知識に乏しい)一般投資家が大きな損失を蒙りかねない。

質 問

日本基準では、のれんの償却期間を最長20年としています。議論の参考になりますか。

回 答

企業の「のれん」の残高を日米欧で比較したところ、日本が一番低かった。言うまでもなく、日本基準は参考にしたい。ただ、日本基準は償却期間が企業に都合よく設定されてしまう側面がある。個人的な意見だが、IFRSに償却を導入する場合は、期間を一律に決めるのが望ましい。

まとめ

IFRSでは現在は不要となっている「のれん償却」が義務づけられることになれば、営業利益が圧迫されることから、業績を押し下げる要因となりますが、他方で、償却が進むことによって、一気に多額の減損損失を計上するリスクを軽減することにもなります。

 

仮に、のれんの償却が必要となった場合に、IFRS適用企業ではどれくらいのが影響があるのかですが、冒頭の記事によると、「17年度時点で国内IFRS導入企業(約160社)は約14兆円、欧州の主要600社は240兆円ののれんを抱え」ており、20年償却が導入されたとすると、日欧合計で年間13兆円の減益要因が生じるとのことです。

 

日本企業でIFRSを任意適用している会社におけるのれん計上額の上位は、以下のとおりとなっています(2018年9月14日時点)

<9984>ソフトバンクG :4兆3025億円{ビジョン・ファンドも運営}
<2914>JT :1兆8912{海外有力たばこ会社を連続大型買収}
<4502>武田 :1兆292億円{シャイアーを6.8兆円で買収予定}
<4324>電通 :7981億円{海外企業を矢継ぎ早に買収・海外売上比率55%}

 

2021年にも結論を出すとのことで、すぐにハードランディングさせることは可能性として極めて低いと見られますが、「のれん償却」が義務づけられた場合、17年度時点で国内IFRS導入企業(約160社)は約14兆円と日本の大企業の中でも影響が受ける企業は多いことから、今後の議論の動向が注目されます。

 

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